日常のメモ

日常のメモ

本が読めるようになった

子供が生まれてから、大好きだった読書ができなくなってしまった。
文字を読もうとしても、目が滑る。
もともと注意散漫だったのだけれど、それがどんどんひどくなり、本を開いても他のことが気になり、読むことに集中できない。

はじめは本が読めなくなっていることに気付いていなかった。
育児はイレギュラーなことの連続で、マイペースなわたしにはなかなか辛い日々だった。
以前なら寝る前にする読書が楽しみで、毎日わくわくしていたのに、本を手に取る気が起きない。
かろうじてあまり考えなくてもいい漫画は読めたので、美味しんぼミスター味っ子、短編のさらっと読める漫画を読んで、なんとか自我を保っていた。

読めなくても本屋や古本屋は変わらず好きだったので、頻繁に行っては毎回気になる本や漫画を何冊か買っていた。読めないのに。
溜まっていく本を見るたびに、憂鬱な気持ちになる。
読めないのに本はどんどん溜まる。
わたしの家には6畳弱の一室に本棚を図書館のように向かい合わせて並べてある書庫があるのだけど、今でもその時期に買った本や漫画が床に積まれている。
きちんと数えてはいない(数えるのが少し怖い)けど、200冊以上はあると思う。
読みたいのに読めない本を買ってしまう自分を軽蔑する気持ちが湧いてくる。
本を読む、本が読めるということがアイデンティティだったのに、本が読めないなんて。自分の存在価値を否定されている気分になる。
友達からおすすめされて借りた本も、もちろん読めない。
読めないけど、早く返さないといけないという気持ちが強くて、読まずに返してしまった本も何冊かある。

本が読めなくなってから、写真を撮ることが多くなった。
Instagramを始めて、撮った写真を頻繁に上げていた。
それがきっかけとなり大福書林さんに誘われ、「いいビルの世界」を共著で制作することになった。
刊行された本、自分が関わっている本なのに読めなかった。
写真は見られるし、短い説明は読めるけど、たくさん並んだ文字を読むことができない。
かなりショックだった。

それから程なくして、秀和レジデンスのイベントでご一緒させていただいたecodecoの谷島さんから、コラムを書かないか、とお誘いいただき、しばらくecodecoのサイトで秀和レジデンスのコラムを連載させてもらった。
ずいぶん長い間本が読めていないのに、文章を書けるか不安でいっぱいだったけど、好きなものについて書く事はどうにかできた。
毎回、書き上げた後は満たされた気持ちでいっぱいになった。
自分が書いた文章は、一応読めた。
他の文章はまだ読めなかったけど。

半年くらい前に、急に本が読めるようになった。
きっかけは去年の11月に、ブックスアンドサムシングという本のイベントで大福書林さんのブースに売られていた野口理恵さん編集の「USO」
様々な人の「嘘」の話の短編集。
気になって買ったその本が、わたしに読めるきっかけをくれた。
すぐには読めなかったのだけど、ある日、なんとなく手に取ってページをめくってみたら、読めた。

短編だったから、毎日少しずつ読み進めて、
全て読み終えたとき、本が一冊読めたという嬉しさで泣いてしまった。
内容も良かったから余計に。

今は少しずつだけど、集中して読めるようになった。
読書の楽しさを、また感じられるようになって嬉しい。
本を買うことに、罪悪感を感じなくなったことが嬉しい。
家にまだ読んでいない本がたくさんあることも嬉しい。

読めて嬉しいって思いながら、今日も本を読んでいる。